| 604487 / 夏目漱石 / こと 
 吾輩ハ猫デアル吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
 何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー
 泣いて居た事だけは記憶して居る。
 
 吾輩はここで初めて人間といふものを見た。
 しかもあとで聞くと
 それは書生という
 人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
 
 この書生というのは、時々我々を
 つかまえて煮て食うという話である。
 しかしその当時は何という考えもなかった
 から、別段恐しいとも思はなかった。
 
 ただ彼の手のひらに載せられて
 スーと持ち上げられた時、
 何だかフワフワした感じが
 有ったばかりである。
 
 手のひらの上で少し落ち付いて書生の顔を
 見たのが、いわゆる人間というものの見はじめ
 であろう。この時妙なものだ
 と思った感じが今でも残って居る。
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