277386 / 夏目漱石
吾輩は猫である吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所で
ニャーニャー泣いて居た事だけは記憶して居る。
吾輩はここで初めて人間といふものを見た。
しかもあとで聞くと
それは書生という
人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
この書生というのは、時々我々を
つかまえて煮て食うという話である。
しかしその当時は何という考えもなかったから、
別段恐しいとも思はなかった。
ただ彼の手のひらに載せられて
スーと持ち上げられた時、
何だかフワフワした感じが
有ったばかりである。
手のひらの上で少し落ち付いて書生の顔を見たのが、
いわゆる人間というものの見はじめであろう。
この時妙なものだと思った感じが
今でも残って居る。
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